体温 

 
 体温が移るくらい、ひとつのアクセサリーを自分のものにしたいと思った。
そのアクセサリーがコロンとそこにあるだけで、ああ、これは彼女の物だなとわかるくらい。

 そう思い始めたのは、もうかれこれ4,5年前。イタリアに行った後、何だかおしゃれに対して釈然としない気持ちを持っていた時に光野桃さんのエッセイを読んで、ヨーロッパの女性のあり方、ジュエリーの身につけ方に強く共感し、憧れたからです。
それまで私は、例えばピアスといえばファッションに合わせて着替えるもの、という感じで楽しんでいました。デザインで遊んだり、バッグや靴の色、他のアクセサリーとコーディネートしてみたり。お気に入りはあるけれど、とっかえひっかえ。今だってそうやってつける時もあるし、全然悪いことではないと思いますが(だって楽しいもの!)、身だしなみのひとつとして、自分の表現のひとつとしてジュエリーをつける、という感覚がとっても新鮮で素敵に感じられたのです。

ちなみに、光野桃さんのエッセイは文体も美しいし、内容も本当に素敵で大好き。強い生命力もお持ちで、間違いなく私の憧れの女性の一人なのですが、そのお話はまた今度にしますね。

とにかくそれ以来私が憧れ、目指しているのはいるのは、自分を飾りたてるのではなく(これ重要!)、自分を引き立てるようなおしゃれ。(この微妙な違い、わかってもらえるでしょうか?)物ではなく、人が前に出るおしゃれ。流行も関係なく、佇まいそのものがその人のプレゼンテーションとなっている、そんなおしゃれです。(うまく言えなくてもどかしい!!でもこれは、ヨーロッパに行った時に肌で実感できました。光野さんのエッセイに惹かれたのは、何よりこのもどかしい感じをとても的確に表現されていたからなんです)そのためにはまず、自分自身のスタイルを確立していないと不可能なのですが・・・。
  

これが、私のスタイル確立第一歩として選んだジュエリー。
卵型のシルバーに、流れ落ちてきた雫のように小さなダイヤがはめこまれています。このぽってりした優しい形とちょっとアシンメトリーなデザインが、私の雰囲気に合っているかなあ、と思いました。当時の私がピアスに払うお値段としては結構奮発して、でも何だか「私らしいものに出会った」と、とても嬉しかったのを覚えています。

それ以来約5年間、ほぼ毎日私はこのピアスをつけ続けています。今では本当に、お化粧するのと同じくらい自然に身につけることができるようになりました。

 私のスタイルに到達するにはまだまだ。何が私らしい?と思うと、何にも服を選べなくなってしまうこともあります。でも、そんな状態も私。時間をかけて、「私」のプレゼンテーションとなるスタイルをまとえるようになりたいな。