Storm influenzae

ここのところ、私がいる地域ではインフルエンザが大流行しています。まあ冬はそういう季節なのでそれはいいのですけれど、最近とても気になることが。

それは、
「こんなに皆が皆タミフルを飲む必要があるのでしょうか・・・?」
ということです。メディアがトリインフルエンザを大きく取り上げたりしたせいでしょうか、何だか必要以上にインフルエンザを怖がっている人が多い気がしてなりません。
 そもそもタミフルは新しい薬で、発売されたのはここ数年。確かにとてもいいお薬だし、タミフルができてからはインフルエンザの入院もとても減ったと、先輩の先生方は口を揃えておっしゃいます。それはとってもいい事だと思いますし、私もインフルエンザにかかって内服をしたことがあるので、その威力はよくわかります。
でもインフルエンザは、少なくとも江戸時代にはその流行が記録されているくらい昔からある病気です。基本的には風邪の治し方と一緒で”安静、水分補給、辛い時には解熱剤”という方法で治ってしまいます。もちろん普通の風邪よりはインフルエンザで亡くなる人は多く、特に高齢者にとっては怖いものではあります。でもタミフルが登場する前は普通の人はそうやって治っていたわけですし、欧米では今でも原則的にはこの方法が多いようです。確かに一般的な風邪よりは症状が強いので、「この辛さを早く何とかして欲しい」というのもよくわかるのですが、必ずしも内服をしなくてもちゃんと治るわけです。でも患者さんと話していると、何の影響でしょうか、普段健康な人なのに「熱が出たらすぐにタミフルを飲まないといけない!!」と思いこんでいる方がたくさんたくさんいらっしゃるのに驚きます。例えインフルエンザと診断されても、タミフルの内服は症状によっては必ずしも必須ではないのに。(と、添付文書にも書いてあるのですが、普通の方は調べでもしない限りそんなことは知りませんものね)だって以前からそうしているように、安静にしていれば治るのだから。そしてそもそも、熱が出てすぐではインフルエンザかどうかの診断も難しいのに。
 病院によっては、この時期に熱を出してきたら救急ではインフルエンザの検査(これがA、Bできるようになったのも、ここ数年みたいですね)はしないで、もうタミフルを出してしまう、という所も幾つかあります。多分、きっと日本中沢山あるのだろうと思います。順番的には検査をしてから、が正しいのですが、実際臨床症状からインフルエンザの可能性が高い、という事と、現場ではそんなこと言ってられない、というのが実情です。確かに”熱”というだけで、ものすごい数の患者さんがこの時期救急に押し寄せて(ほとんどの人は1次救急レベルですが・・・)、検査をすると2回診察室に呼ばないといけなかったりして、さっさとお薬を出してしまう方が待ち時間も少ないし、患者さんもそれなりに納得してくれるのです。正直、私もあまりに忙しいとそうしてしまう事があります。家族に感染者がいる、なんて聞けば特に。でも、、、と最近思うのです。
 重大な問題になって久しいMRSAなどの耐性菌。これらは、ご存知のように必要以上に抗生剤を濫用したのが原因で生じてきた問題です。正直言って、臨床の場ではかなり厄介です。タミフルで言われている、使用によって耐性ウイルスが生じる可能性は約1%弱(大人、小児の平均らしいです)。今のところは耐性化しても感染力は弱いとされ、幸いヒトへの耐性ウイルスの話も聞こえてきません。

でも、今のように湯水のごとく処方していたら、果たして将来は・・・?
必ずしも内服の必要のない人たちが「安心だから」「一応飲んでおきたいから」と、今自分だけ良ければいい、という感じでタミフルを飲むことで、結局将来自分たちにしっぺ返しがくるのでは・・・?

 私は最近、このことがとっても気になるのです。
ここの地域で見ている限りでは、今年のインフルエンザは症状が軽い印象です。重症感がある人は本当に少ない。だから余計にそう思うのかもしれません。もちろん、すぐに熱を下げる必要のある人や高齢者、基礎疾患のある人、重症者などは別ですよ!こういった人達は迷わず内服してもらう事が必要です。
 ちなみに、現在世界で生産されるタミフルの8割近くを日本が消費しています。それぞれの国の保険制度などの理由もあるのでしょうが、多くの方が警鐘を鳴らしているように、私もこれはどうかと思ってしまいます。具体的にどうしたらいいのかはわかりませんが、もっと、世界で本当に必要としている人達の方へ回すべきなのではないのかしらん・・・?? 薬を内服することによって症状は改善しますが、有熱期間の短縮は約1日と言われています。また内服して熱が下がってもまだ感染力はあるので、幼稚園や学校は解熱後さらに2日間はお休みしてもらっています。まだ感染力はあるのに、熱が下がったものだから本人はいいと思って外へ出ると、周りに感染を広げてしまうことになるのです。
 「タミフルを飲まないとインフルエンザ脳症になるのでは?!」と心配する方もいらっしゃいます。確かに、残念ながら不幸にも脳症になってしまう場合はあります。しかし急性壊死性脳症について言えば、脳症の症状が発現するまでの期間が平均1.4日。インフルエンザと診断されるくらいの頃にはもう症状が出てきてしまうのです。そしてタミフル自体は脳症の治療にはなりませんし、発症の予防になるのかもはっきりしません。。。インフルエンザ脳症にかかる子の多くには(必ずしも全員ではありませんが)ある酵素の遺伝子多型が認められる・・・という興味深いデータもあるので、もしかすると宿主側の要因も関係があるのかもしれませんが、どんどん話が逸れてしまうのでそれは今はいいとして。。。そう言っていると一番いいのはまず予防接種、となるわけですね。でも予防接種をしてもかかる場合ももちろんありますが。
 えっと、何だかごちゃごちゃしてしまいました。話を戻すと、最近私はやたらと、おそらく必要以上にタミフルが使われているのが心配、ということです。薬を飲むということは、それなりに副作用のリスクだって伴うのですから。忙しいため、患者さんを納得させるために、安易に処方してしまう私達にももちろん責任はあります。ただ将来の自分達、ちょっぴり大袈裟に言えば未来の人類全体のためにも、本当にこの薬は飲む必要があるのかどうか、出す方も出される方も5秒間でも考えてくれたら、と思うのです。
こんなこと言ってると、薬屋さんに怒られちゃうかな(笑)