HOTEL RWANDA

 1994年の4月、私は何をしていただろう。
 多分高校3年生だったので、あと1年で高校がおしまい!嬉しい〜♪とか、今年は大学受験かあ、ちゃんと勉強しなきゃな〜・・・なんて考えながら、渋谷や下北沢辺りで遊んでいたことでしょう。いつもと変わらずに。桜の季節を迎えて・・・。

         
 ずいぶん前になりますが、『ホテル ルワンダ』を観ました。とても話題の映画だったので、多くの方がご存知だと思います。この映画を観て、そういえばニュースで「ツチ族」「フツ族」という単語を聞いたことがあったことを思い出しました。人がたくさん倒れている写真も新聞で見た気がします。でも当時の私は、「アフリカのどこかで民族同士の殺し合いが起こっているらしい」「ふーん、どうしてそんな事するのかなあ。怖いなあ。」くらいにしか思っていなかった。
 その頃、ルワンダではこの映画で描かれているジェノサイト(民族抹殺)が行われていたのです。約3ヶ月の間に100万人、実に国民のうちの10人に1人が殺されたことになります。老若男女問わず、例え相手が子供でも、国民の10数%を占めるツチ族と、フツ族の穏健派が。これは何とナチスユダヤ人に行ったよりもずっと効率的な殺戮だった、という計算になります。隣人が隣人を、先生が生徒を、市長が市民を、患者が医者を、神父さえ教会に避難してきた信徒を殺したのです。ほとんどが、大きなナイフのようなマチェーテで。銃を持っていれば銃で。あまりに多いとまとめて焼き払って。20世紀の最後になってそんな事があったなんて、私にはとてもとても信じられませんでした。でも事実なのです。映画では、その時自分が持て得る限りの手段を使って1000人以上のツチの人の命を守った超高級ホテル・ミルコリンのマネージャー、ポールの物語が描かれています。
 
 この映画に対し、私は感想なんて言えません。この事実を知る、それだけでもういっぱいいっぱいです。映画で西側諸国の助けを期待するポールに対し、この惨状を世界に報道しようと努力し続けた欧米人のジャーナリストの言葉は今でも心に残っています。
「ニュースを見てもどうせ彼らは”怖いね”と言ってディナーを続ける。それだけさ」
これはまさに今の真実。。。それが悪いとかいいとか言う話ではなく、ただ真実。そうですよね。
この映画を観た後にI君と話し、自分達がいかに何も知らないかということに愕然としました。まずルワンダがアフリカのどこにあるかも知らないのですから!まあ自分達の生活にまず関係がなかったし、興味もなかったので当たり前です。I君はさっそくこのジェノサイトについての本(公式HPにある物です)をamazonで注文しました。
       
 この本ではそもそもなぜこんなことが起こったのか、その時の状況はどうだったのか、国連は、世界はどうしていたのか、その後のルワンダはどう揺れ動き、どのような道を歩んでいるのか・・・・といった大きな流れが、一般人から現大統領のカガメ氏まで、様々な人々へのインタビューを経て記録されています。正直言ってこの状況はいくら説明されても私には理解できるものではなく、アフリカの人の名前も覚えづらいし、権力の在りかもバランスも目まぐるしく変わっていくので、本好きの私でさえこの本は読みづらいです。口が裂けても「よくわかった」とは言えません。でも映画を観ておしまい、ではなくて、どうしてもどうしても読まずにはいられませんでした。
 結局原因をはっきり理解するのは難しかったのですが、遥か遥か彼方の元を辿れば、もしかするとかの有名なカインとアベルの兄弟の物語から・・・(また聖書!歴史にはどうしたってこの本が登場するのですね。本当に不思議)、少なくとも植民地支配の影響が色濃いのは確かです。そして、先進国が自分達の手は汚さずに得られる経済的利益、利益、利益・・・。これが実行されたことは言うまでもなく、このジェノサイトに至るまでの周到な準備も驚くべきことです。

 こういったことを今さら私が知ったからどうだ、ということは、はっきり言って全然ありません。じゃあ何かできるのか、と言われると、どうだかさっぱりです。日常の診療にも、全然関係ないでしょう。でも今世界はどんどん小さくなっているし、例え遠い国の出来事でも『風が吹けば桶屋が儲かる』式に自分に影響している事だって少なからずあると思います。だから、自分に直接関係ないように見えるこういったことを知ることが無駄とは、私は全然思いません。関係ないから知らなくていいや、とは思えない性分なのですね。それが何かに生かされているのかは不明ですが・・・笑
 でもね、私は知識や勉強というのは、少し目が悪い人にとっての眼鏡みたいなもの、と思っています。なくても別に生活するには困らない。でもあれば、世界がもっと良く見える。気づかなかった事が見えてくる。違う切り口も見ることができる。
 
 この本にも『ホテル ルワンダ』のポール自身が少し登場します。彼の場合は大勢のツチの人を保護したわけですが、実際他のフツの人もお気に入りのツチの人を家にかくまい、そうしつつ外へ行っては他のツチの人を殺していた・・・という人は多かったそうです。母親がツチである軍のお偉いさん達も、親族はミルコリンに連れて来たと。著者はポールは決して特別な人物ではなく、ただ類稀なる良心を失わなかった人物、と評しています。そしてインタビューでポールはこう言っています。こんな状態に置かれた時、自分はどうするのでしょうか・・・
『僕はただ自分が正しいと思うことをやっただけで、自分が特別だなんて思わない。みんな、そうしようと思えばできたはずなんだ』


 もし興味がありましたら・・・・JICA