惚れっぽい女(ひと)

　　同じ病棟の看護婦さん、Ｔさんには好きな男(ひと)がいます。
Ｔさんと彼は以前一緒に働いていて彼は今も時々ここへいらしていますが、病棟にいるＴさんと顔を合わせることはほとんどありません。ごくたまーーーに病棟へ彼が来てそしてたまたまＴさんも日勤でいると、彼女は傍目にも分かるほど本当に真っ赤になり、慌てて周りに「口紅貸して！」と言ったりします。私は「せっかくだから話に行きなよー。」と言うのですが、Ｔさんは決まって「嫌だよ。」とクールに言って少し離れた所から彼を見ているだけです。でもその真っ直ぐな視線はキラキラと輝く粒子を放って温度を持っているかのようであり、１秒でも長く視線で彼に触れていたい・・・という思いが溢れているようで、何だか見ていて微笑ましいのです。
そんなＴさんは、実は私より８つくらい年上。普段はサバサバした性格で仕事も必要なことをテキパキとこなし、他の人のフォローもでき、私から見たらとても頼れる看護婦さんです。そして何と４人(！）のお子さんもいます。初めてそれを聞いた時、私は本当に驚きました。だって、お子さんが多い人にありがちな(偏見だったらごめんなさい・・）生活感のにじみ出た雰囲気を全っ然感じさせないのだもの！！
そして、その理由はなんだろう・・・・と考えてみました。
思い当たるのはやはり、彼女の『この男(ひと）が好き』という対象がいる事でしょうか。しかしそれは決して、じっとりと暗く密やかな、昼ドラみたいな重い物ではありません。まるで中学生の女の子が部活の花形の先輩に憧れるような、からりとした、そんな淡い『好き』なのです。そう、彼女が彼をお気に入りであることを病棟中が知っているような（笑）そうでなければ、もちろん私だってこんな事かけないものー。そんな現実感の薄いやや浮世離れの『好き』だから、当然その相手とどうかなろう、とかそんな思いもありません。もちろん、旦那様が一番大事。でもその人を見ると胸がドキドキと高鳴る憧れの相手がいつもいる、自分だけの楽しみ・・・・。
これっていけない事？こういう刺激ってむしろ素敵なんじゃない？という私はダメかしらん？？でも少なくとも彼の前に出る時のＴさんはいつもよりきちんとお化粧して綺麗で、確実に女度が３００％くらいアップしているのです。こういう気持ちを忘れない。例え子供が４人いようと、３０代終わりにさしかかろうと、彼女がとても女っぽい理由は、ここにあると私は思っています。

　かくいう自分はどうでしょう。

どちらかと言えば、私はおそらく惚れっぽい女です。ドキドキし易い女、とでも言いますか。（心配されるといけないので先に言っておきますが、でもだからどうということはないのでご心配なく！）
例えば、私は演劇が大好きで大学時代にはお芝居をやっていました。ご存知、結構な複雑路線のお芝居だったわけですが（そしてそれがとっても楽しかった！笑）お芝居をやれば、その中で役をもらうでしょ。その役で、大体相手もいますでしょ。そうすると・・・恥ずかしながら、今だから言ってしまいますが、練習中から私はその相手のことが好きになってしまうのです。役と現実がごっちゃになってしまう、切り替え下手なのかもしれません。もちろんストーリーにもよりますが、でもとにかく結構な確率で、相手のことを好きになってしまうことが多いです。もちろんその間もＩ君が一番なのは変わりないのですが、それとは何だか別の場所を占めるのです。今まで共演した方、ご迷惑だったらごめんなさい★★そしてＩ君、もしも不快だったらごめんなさい。気持ちが逸れる、というのとはまた違うのですが。
役に入っていると、練習中から、その人に会うとドキドキします。授業の合間にすれ違って笑顔を交わしただけでも、一瞬絡んだ視線の余韻でも、じんわりハッピーになれます。これ、恥ずかしながら完全に恋愛モードですね。。。たぶんそれは一時の幻影、だけど。
もしも私の台詞が、観ている人の心に届くものだったのだとしたら（そうだったらとっても嬉しい）、それは私が本当に、心からそう思っているからです。私がその人との別れの際に台本にはない涙をこぼしていたのならば、それは本当に、あなたと別れるのが辛いからです。
ただ私も自分がそういうタイプだと知っているので、その後どうなるという事はありません。（本当にないです！）でもその間は間違いなく幸せだし、Ｉ君とはまた違ったドキドキ感で女度も上がるのです。・・・・・ということを、Ｔさんを見ていて思い出しました。日常でも、雰囲気のある人を見てなんとなくドキドキ・・・ということもあるし。恋愛感情にはならなくとも、心がざわめき立つような、あのどきどき。そして、ちょっとペディキュアでも塗り直そうかな、という気分になるのです。周りに迷惑をかけない、問題をおこさない惚れっぽい部分は、女にとってはいいスパイスではないかしら、と。そしてそれは別に、相手が芸能人だろうと誰でもいいのでしょう。自分だけのドキドキだから。

　あ、でも考えてみると、自分の相手が私以外の女性にドキドキしていたらやっぱり嫌かも。。。。例えそれが擬似モードで、それでどんどんいい男になったとしても、彼がドキドキしていたことを知ったら複雑な気分。。今はもちろん私はそんなことしていないけれど、自分がされて嫌なことは相手にもしちゃダメよねえ。だから今は、一生の相手にドキドキできること。それが理想だと思っています。きっとお互い努力は必要だけど、それはそれで楽しい努力じゃないかしらん。私、自分もドキドキしながら、一生相手の胸を高鳴らせることができる女性になれたらいいな。