フェアじゃない

 助産婦さんではない看護師が助産行為をしていたというH病院のニュース。私が入っている周産期のメーリングリストでも意見がずっとかわされていて、私も本当に歯がゆいような、悔しいような思いで見ています。

患者さんが不幸な転帰になってしまったことは本当に残念です。。。その時の処置が適切だったのか等の医学的検証はもちろんされなければなりません。でもまたそれとは別に、あまりに偏ったこの件に関する報道の仕方には憤りを感じます。
助産行為そのものと患者さんの死因との直接的な関係はないことは歴然としているのに、わざとなのか全然勉強していないのか私にはわかりませんが、まるで違う問題をあたかも一緒かのように堂々と伝えている報道。大衆受けするような内容に終始し、センセーショナルに煽って、一般の方が見て誤解を招いても当然のような報道。H病院のことはお話に聞くだけで私は全然知らないのですが、必ず産婦人科医と小児科医は当直していたそうですし、分娩費も安めにし、年間3000件近くのお産(神奈川県の10%相当にあたる件数だそうですね。すごい数です!!)をこなしている割には異常新生児の割合は少なく、母体搬送や新生児搬送のタイミングも適切だと感じていたという近隣の先生方の声をお聞きすると、まさに『規則は守らなかったかもしれないけれど、医療倫理は守っていた』というある先生のご意見に頷いてしまいます。それまでにも助産婦不足の問題は医師会と厚生省で改善の方向に向けての話があったはずなのに、適切な制度の改正がなされないままこんな事になってしまい。。。

「必要悪」という一言も現場の私達はものすごく納得できるのですが(でもこれは後から撤回されましたね。)、規則を破ったのならば、その責任をとるなり裁かれるなりはされるでしょう。ただ、この件ではそれと患者さんのことは別。(別、の不幸な出来事であることには変わりないですが。。)
どうしても起こってしまうことはあっても、でも医療側も不幸な事が起こらないように必死で日夜頑張っているのですから、報道をする側も、結果や上っ面だけではなく、こういった今までの経緯やその背後にある社会問題など、もっと見ている側も頭を使うように、もっと掘り下げて公正にしてもらいたいと思うのです。無責任に言いっ放しにするのではなく、そのニュースが未来へつながるように。報道の影響力ってすごいのですから(そして怖いなあ、とも思います)、それを社会にいい方向に使って欲しいのです。そうでなければ、まさに寝食を削って、身を削ってお母さんと赤ちゃん達のために従事している産婦人科の先生方が報われません!!木を見て森を見ない偏った大きな力で選択的に実情を覆い隠し、そのために地道に頑張っている人達までもが誤解を受けたり、今まで積み上げてきたものをぶち壊しにされることが本当に悔しい。そして、決して人ごとではない空恐ろしさも感じます。
去年の福島県産婦人科医逮捕といい、「産婦人科医が足りない足りない」と言いながらもこんなフェアではないのならば、未来の産婦人科医はもっと減っていくでしょう。開業医の先生方はますますお産をやりにくくなるでしょうし、地方でもお産できる場所はますます限られてくるでしょう。口では少子化が問題問題と言いつつ、産婦人科医が足りなければかなり困るのは私達、自分達です。昨今の周産期医療の現状はかなり厳しいのですから。どう考えても悪い事をしたのならともかく、一体これは何なんでしょう。どうしたいのでしょう。色んなブログを見れば物事は単純ではなく、他のシナリオがあることも疑えそうですが、私にはわかりません。とりあえずは不安をいっぱいに抱えて他の病院に流れていくであろう沢山のお母さんと赤ちゃん達が心配。
こんなニュースをやった直後に「人工受精の助成金が増加されて・・・」なんてニュースを流されても、本当に白けてしまいます。
最後に、不幸にして亡くなられた患者さんのご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、ご家族にも心よりお悔やみを申し上げます。。